【獣医師監修】愛犬の認知症|早期発見のために知っておきたい兆候と対策法

愛犬が10歳を超えていて様子が少しずつ変化していることに気づいたら、「認知症が始まったのかもしれない」「この先どうしよう」と不安な気持ちになりますよね。認知症は脳の障害が原因で起こりますが、進行性のため、早期発見を行い、適切なケアによって進行を遅らせることが大切です。
今回は犬の認知症について、症状や対策、予防法などを解説します。
■目次
1.犬の認知症とは
2.認知症の主な兆候と特徴
3.認知症と間違えやすい他の病気
4.動物病院での診断と治療
5.日常生活でのケアと対策
6.家族の接し方とコミュニケーション
7.まとめ
犬の認知症とは
犬の認知症は人の認知症と同様に、加齢に伴って引き起こされる脳の障害です。脳の萎縮などが原因で認知機能が低下し、さまざまな行動の変化が見られるようになります。
10歳を超えてから発症することが多く、15歳以上の過半数に何らかの症状が見られるともいわれています。また、柴犬などの日本犬に多く発生する傾向があります。
また、認知症は日頃から脳を刺激したり食べ物を工夫したりすることで、ある程度予防できるといわれています。ただし、完全に予防することは難しいため、早期発見することも重要です。
認知症の主な兆候と特徴
愛犬に以下のような変化が見られた場合は、認知症のサインである可能性が考えられます。
<夜鳴きや無駄吠えの増加>
夜を中心に、抑揚のない単調な吠え方をします。
<トイレの失敗>
トイレの場所がわからなくなり、粗相をしてしまいます。認知症が進むと、尿が垂れ流し状態になることもあります。
<生活リズムや睡眠パターンの乱れ>
昼間に寝ている時間が増え、夜に寝ないで行動するようになります(昼夜逆転)。
<見当識障害>
場所や人物などを認識できなくなり、家の中で迷子になる、家具の隙間や部屋の隅から動けなくなる、こぼしたフードを見つけられない、飼い主様を認識できないといった症状が見られるようになります。
<性格の変化>
不安感が強くなって臆病になったり、攻撃的になったりするケースもあります。
<食欲の変化>
ごはんを食べたことを忘れてすぐにごはんを欲しがることもあれば、逆にごはんを認識できなくなって食欲が低下することもあります。
<家族への反応の変化>
飼い主様を認識できなくなったり無関心になったりすることから、家族への反応が薄くなったり、逆に攻撃的になったりすることもあります。
認知症と間違えやすい他の病気
認知症と思っていたら実は以下のような病気が隠れていた、というケースも少なくありません。
<聴覚・視覚の低下>
認知症でも聴覚が低下しますが、単なる聴覚の低下であれば他の感覚を駆使して情報を得ようとします。また、視覚の低下も同様で、単に視覚が低下している場合であれば、他の感覚を駆使したり、仮に物にぶつかっても方向転換をすることができたりします。
そのため、病気が原因で聴覚や視覚が低下しても、日常とさほど変わらない生活を送ることができます。
<関節疾患>
犬は加齢に伴って、関節炎がよく見られるようになります。痛みを伴うため、認知症と同じように活動性が低下したりトイレの失敗が見られたりしますが、関節炎の場合は歩いている最中にニオイを嗅いだりキョロキョロしたりと、周りに関心を示します。
<内分泌疾患>
加齢に伴い、副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症など、さまざまな内分泌疾患が起こりやすくなります。中でも副腎皮質機能亢進症は、活動性が低下する、夜鳴きや徘徊をするなど、認知症と似たような症状が現れます。
ただし、認知症では見られない多飲多尿や皮膚症状(脱毛など)、お腹が膨らむ、呼吸が速くなるなどの症状も伴います。
動物病院での診断と治療
認知症は進行性のため、どんどん症状が悪化していきます。そのため、「認知症かな?」と思われる症状が見られたら、まずは一度動物病院を受診することをお勧めします。
診断では、専用のチェックリストを用いて評価します。また、他の病気を除外するために、血液検査やレントゲン検査、超音波検査などを行い、総合的に診断します。
残念ながら犬の認知症を治す薬はないため、進行を遅らせるような薬やサプリメントを処方したり、食事療法を行ったりします。
前述したように、認知症は進行性の病気です。そのため、シニア期に突入したら半年に1回を目安に定期検診を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。
日常生活でのケアと対策
認知症は治すことが難しいため、愛犬ができるだけ快適に過ごせるよう、さまざまなケアや対策が必要になります。
<生活環境の整備方法>
角ばった家具などに緩衝材を付け、ケガを防止しましょう。また、徘徊や旋回運動が見られるようになったら、円形のサークルを用意すると、ケガを防止でき、飼い主様も愛犬から目を離す時間が作れます。
<適切な運動量と運動方法>
適度に運動を行うことで、生活リズムにメリハリがついて日中の眠りすぎを予防したり、足腰を強くしたりすることができます。そのため、無理のない範囲でお散歩を楽しんでみましょう。お散歩コースを変えれば、脳に良い刺激を与えることもできます。
<脳を活性化するための遊び方>
知育玩具を使って遊んだり、新しいコマンドを覚えさせたりすると、脳を活性化することができます。
<食事とサプリメントの選び方>
DHAやEPA、ビタミンCやビタミンEなど、認知症に良いとされている成分を含んだ食事やサプリメントを積極的に摂るようにしましょう。
家族の接し方とコミュニケーション
飼い主様とのコミュニケーションは脳を活性化させたり、安心感を与えたりと、認知症の犬にとってなくてはならないものです。そのため、優しく接したりスキンシップを取ったりすることで、認知症になる前と同様に、たっぷりの愛情を伝えるようにしましょう。
また、認知症になると、一度覚えたはずのコマンドやしつけができなくなってきます。そのため、失敗しても決して怒らないようにしましょう。
認知症で見られる症状はどれも故意ではないとわかっていても、どうしても飼い主様のストレスが溜まってしまいます。しかし、感情に任せてしまえば犬にとって大きなストレスがかかってしまい、むしろ逆効果になります。
そのため、たくさん声をかけたりスキンシップをしたりして、できるだけ愛犬がリラックスして過ごせる環境を作ることができるように心がけましょう。
まとめ
犬は10歳を超えると認知症の発症率が高くなります。ただし、認知症だと思っていたら実は病気が隠れていた、というケースもあります。
そのため、定期的に健診を受けることで早期発見を心がけ、万が一認知症が疑われる症状が見られた場合は、早めに動物病院へ相談するようにしましょう。
■関連する記事はこちらから
シニア犬の目の濁りについて|放っておいても大丈夫?
10歳を過ぎた愛犬の健康を守る|獣医師が教える7つの重要ポイント
シニア期の犬や猫の麻酔について|安全な麻酔とは?
東京都世田谷区の動物病院なら『つるまき動物病院』
診察についてはこちらから